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カメラが映してくれないと見えないだろうが。視聴者を何だと思っている……ふっ、テレビに向かって悪態をつくなんて、私も随分と歳を取ったな。でも今は卵だ。テレビカメラがゆっくりと四角い人工の池を映し出す。ああっ!あれは、あれは……あの、白くて艶のある殻。紛れもない、私が産み落とした卵。そう直感した。あの時は気が動転して流してしまって申し訳なかったなあ。でも割れていないし、以前より随分と大きくなっているじゃないか。
「うわ〜、本当に卵ですね。でも先ほど伺った話ですと、ここは浄水処理の一番最初の段階との事でしたが、水は既にこんなに綺麗なんですね」
「それなんです。実はこの卵が流れ着いてから汚水がみるみる綺麗になっていって……この最初の施設で、飲み水とほぼ同じ水質まで戻ってしまうんです」
なんだと。私の卵はそんな力まで持っているのか。さすが、私が産んだだけある。そういえば私が宿便だと思っていた時も、最終的に便は一回も出て来なかったし、腹にも溜まってもいなかった。コイツが全部浄化していてくれていたのか。なんと、なんと親孝行な卵よ……はっ、いけないいけない、年甲斐も無く涙を流してしまった。それとも歳を取って涙腺が緩くなったのか。まあいい。私は、私の産んだ卵が無事で嬉しい。
「と言う事で現場からは以上です」
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