ふたりは女官 DIRTY HEART

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魔幻(まげん)。それは大宇宙を無に帰さんと企む邪悪な存在である。そしてこの星、この国の「平安」と呼ばれる時代にもその魔の手は迫っていたのだ。ここに物語は怒涛(どとう)の急展開を見せる。 「来たか!(ガタッ)」  一人の女官(にょかん)が突然立ち上がるやいなや、(まと)っていた十二単(じゅうにひとえ)を脱ぎ捨てて走り出す。その下に身に付けていたのは純白のバトルスーツ。  傍の女官がその姿に悲鳴を上げた。 「清少納言(せいしょうなごん)様! それは!」  帰ってきたのは言葉ではなく、投げ捨てられた垂髪(すべらかし)のウィッグだった。本来の彼女は茶髪のショートカットだったのだ。  屋敷を飛び出した彼女が見たものは、青空にどす黒い口を開いた次元の穴と、その直下で無数のプラズマ閃光を走らせながら実体化しようとしている巨大な半透明の怪物の姿だった。 「カモン、AKEBONO!」  叫ぶなり背後の空間を歪ませながら現れた銀色の装甲(アーマード)バイクに、見事なジャンプで飛び乗り走り出す。と、急に陽光を遮る黒い影が。見上げればすぐ頭の上を、トビウオのようなフォルムの小型エアライダーが並走しているではないか。インカムから聞こえてくるのは若い女性の声。 「あら、早かったわねナゴ(ねえ)。歳のわりに」 「その呼び方はおかしいって言ってるでしょ。あと、ひと言余計」  通信の相手は紫式部(むらさきしきぶ)。驚くなかれこの二人、実は魔幻の侵攻に備えて未来から送り込まれたエージェント、ケイとユリなのであった。そのコードネームは 清「やうやう白くなりゆく生え際、キュアクリーン!」 紫「すぐれて時めきたまふ女子(おなご)ありけり、キュアパープル!」 清・紫「ふたりは女官、ダーティキュアーズ!」 清「待てや! あたしだけおかしくないか?」 紫「♪ぷっりきゅっあっ、ぷっりきゅっあっ、ああ渚のシンドバッド」 清「おまえは嘉門達夫(かもんたつお)か!」  馬鹿なやり取りをしている場合ではない。巨大な人型の怪物は実体化を終え、街を破壊せんものと歩みを始めている。その先にはやんごとなきお方の住まう御所(ごしょ)が。 「これじゃないの、ダイダラボッチとかいう言い伝えって」 「パープル、あいつの弱点はわかる?」 「言われなくても調べてますぅ」  ユリはエアライダーUTSUSEMI号に搭載された組成センサーで怪物をスキャンする。3・2・1・分析完了(アナライズド)! 「あー、ほぼ100%のエネルギー体ですねー」 「例のやつか。てことはどこかにコントローラーがいるってわけだ」 「まさか空から探せなんて無茶言わないですよねえ?」 「余裕がないわ。直接叩く!」  バイクを加速させようとした瞬間、 「ナゴ姐危ない!」  怪物の指先から放たれた光弾が立て続けに襲う! エアライダーは重力子(グラビトン)スラストで瞬時にかわしたものの、着弾の衝撃で(えぐ)られた地表ごと装甲バイクは宙に弾き飛ばされた。 「こなくそっ!」  ケイは罵声(ばせい)を飛ばしながら、回転するバイクを空中で必死に制御する。だが目の前には太い銀杏(いちょう)の大木が迫る。南無三(なむさん)!  激突!と思った次の瞬間、銀杏の幹は水を吸った砂糖菓子のように崩れ落ちた。間一髪、UTSUSEMI号の分子間力消失(アンチファンデルワールス)ビームが命中していたのだ。装甲バイクはかろうじて着地に成功する。 「ひとつ貸しね」  (うれ)しそうなユリの声。 「あなた、あたしのアイデア『若菜(わかな)』で使ったじゃない」 「元ネタのホラーあたしも知ってたしぃ」 「ああ?」  いやいや、口喧嘩(くちげんか)をしている暇などないのだ。 「さっさと片付けるわよ」 「あいつのエネルギー量の方が多かったらどうするわけ?」 「気合いで上乗せ!」 「違うわー、『冬はつとめて』とか言う人はさすがに違うわー。布団から出る気しないもん普通」 「つべこべ言わない!」  キュイン! 擬似核(スドーアトミック)エンジンの甲高(かんだか)い唸りとともにバイクがジャンプ、その直下にエアライダーが滑り込む。機体の背中が開いて牽引(けんいん)ビームでバイクを収納固定する。 「エンジン直結。エネルギー、中性子(ニュートロン)放出準備!」 「シールド展開。エネルギー、重力子(グラビトン)放出準備!」  ひとつになった機体が白い排気を残しながら怪物に向かって矢のように飛ぶ。光の弾幕をローリングで華麗に避ける。 清・紫「キュアーズ・スウィート・エナジー・バーストーッ!」  怪物に突入しながら蓄積したエネルギーを中性子・重力子とともに一気に放出! 衝撃で集積コントロールを失った怪物の身体は霧のように消え失せた。 「おのれダーティキュアーズ!」  その様子を町のはずれで見ていたカーキ色のコートに黒縁眼鏡の男が、手にしていたコントローラーを足元に叩きつけた。 「まあいい、どうせこの星もいずれは無に呑まれることになるのだ」  そう言い捨てると、木立の隙間に開いた次元の裂け目へと姿を消した。 動力を使い果たした機体が合体したまま山の斜面に突き刺さっている。時空JAFは当分来そうもない。 紫「あたしたち、女官に戻れるかな」 清「さあ。知らん顔してりゃいいんじゃない? そのうち忘れるわよみんな」 紫「そんなわけあるかい!」 負けるなダーティキュアーズ!  ふたりの戦いはまだ始まったばかりだ! (つづく、わけがない)  
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