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姉と話をするのは何年振りだろう。瀬谷部みのりはチョコバナナクレープへ齧り付きながらぼんやり思う。しかし会話はビターチョコレートほども甘くない。
「帰るつもりはないし、そもそも会いたいとも思わない。母さんが大変なのはわかったけど」
うん。みのりは頷きながら歳の離れた姉を見やる。
日本人形のように真っ黒でまっすぐだった髪は、肩上の長さで茶色く染められゆるくウェーブがかかっている。シャツにパンツのカジュアルな服装は、小柄すぎて苦労していた姉のサイズに合っていた。このまま雑誌やテレビに出ていてもおかしくないと思えるほどだ。
無防備な笑顔も砕けた口調も寝起きくらいでしか見なかっただらけた表情も。姉が東京という場所で、力を抜いて暮らしているのだとみのりには感じられた。それでも言葉に毒を感じるのは姉が姉である所以か。
姉の荒れのない細くて小さな手が懸命に伸ばされみのりの頭に下された。ぽんぽんと二度優しくあやすように叩かれる。
「ごめんね、みのり。私はあんな仲間だとか絆だとかで人を縛る場所には居られない」
ご馳走様でした。瀬矢部さんそろそろ。
修学旅行の為だけに出席番号順で班を組まされた級友たちは、クレープの包装をゴミ箱へと押し込んだ。
「じゃあね、姉ちゃん」
「みのり、来年、」
みのりは聞こえなかったフリをする。クラスメイトたちに追いついて、最後に一度振り返る。
「バイバイ」
その場で小さく手を振る姉へ同じく小さく振り返し。みのりはその場を後にする。
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