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ぬらりひょんは腕を組んだまま、微動だにしない。何事か考えているのか、おし黙ったままだ。
(ぬらりひょん様、私をお気に召さないのかしら)
おそるおそる、さちは声をかける。ぬらりひょんの思考を邪魔しようと思ったのではない。
「あのう、ぬらりひょん様。私の体にお塩をふりましょうか? 塩は素材の旨味を引き立てますから、私のような卑しい者でも、きっと美味しくいただけますよ」
さちは朗らかに微笑んだ。その言葉に、何ひとつ偽りはなかった。ぬらりひょん様に、せめて美味しくいただいてもらおう。それが今のさちの望みなのだ。
「おぬし、『さち』と言ったか」
「はい、ぬらりひょん様」
「おぬしは、阿呆なのか。それとも金持ちの娘ゆえに物事を知らぬ、『ぼんくら』なのか」
「は、はい?」
さちには意味がわからなかった。美味しくいただいてもらうために、素材に塩をふることは料理をする者にとって常識だからだ。
「ひょっとして、塩はお嫌いですか? それでは『そーす』をかけましょうか? 私、買って参ります!」
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