第一幕

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 私が教室へついてから、10分が立った。  教師がまだ来ない。生徒は揃っている。  遅刻する教師とは、公務員としてどうなのか。  一応それで、給料をもらっているのだろう。  頭の中で文句を垂れていたら、戸が勢いよく開いた。  息を切らした教師が、フラフラと黒板の前に立つ。  そして、チョークで︿中野美香﹀と書いた。 「担任の中野美香です。遅刻してすいません…」  そして、席順に自己紹介をしてください、と付け足した。  生徒は言われたとおり、左端の列から順に自己紹介をしていった。  そしてとうとう私の前の席まで来た。  どうしよう。なんて言おう。名前だけじゃ、ぶっきらぼうかな。  前の席の子の声が、ぐにゃりと曲がって聞こえる。  次の人、言ってください。中野が言った。  思わず、席を立つ。  たったはいいものの、言葉が出てこない。  喋ろうとすればするほど、喉につっかえて、かすれた音しか出てこない。
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