第一幕

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 先人の、著者の価値ある考えを知ることのできる読書は、人と話さない私にとって、情報の宝庫、知識の源だった。  1ヶ月で、120冊読んだ。3ヶ月で、360冊程読んだ。半年で、学校の図書室の本を読み尽くした。  それなのに、感情移入なんてしなかった。本を読みながら泣くことなんて、ましてや笑うことなんて、できなかった。  それにも、感情が動かなかったことに対しても、何も感じなかった。  両親はそれを心配し、私を精神病院へ連れて行った。  そして医者には、病名をもらった。  ︽失感情症候群︾。  私が病気だということは、案外納得がいった。  両親はそれを自分のことのように悲しみ、嘆いた。  そして、可哀想、と言った。  私は、可愛そうなのか。  それでも、両親の心の痛みはわからなかった。  結局私は、なんの感情も持たない、人形のようなものなのだ。  ただ、食事をし、学び、息をするだけの人形。
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