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試験
俺は 明日からの過酷な挑戦に備え
その夜は 躾に厳しそうな
説教部屋を選んで入室!
その名も
『妖怪厳格婆』
「よろしくご指導の程 お願い申し上げます」
と 入室
『どんな説教を希望する?』
「日本古来の厳格な精神を ご伝授下さい」
『そんなもの 1時間やそこらで伝授できる訳もなかろう』
「では 日本の伝統や厳格な精神を理解していない人間が そうした精神の持ち主と仲良くなる方法を教えて下さい」
『笑顔 思い遣り 素直 それだけじゃ』
「おお それならできるかも」
『ヘラヘラ笑うでない 心からにじみ出る思い遣りが 自然に作る笑顔こそ美しい わからないものはわからないと 素直に伝え 学べばよい』
そうだ その通りだな
俺は 何となく安心して熟睡
次の朝早く 由香里さんと待ち合わせ
新幹線で 由香里さんの実家のある
地方都市へ 向かう
午前9時半には
由香里さんの実家へ到着
武家屋敷のような 立派な塀
厳めしい門の奥に広がる
見事な日本庭園の一角に
日本建築の粋を尽くした感の
御殿のような大邸宅があった
玄関に近づくと
「お嬢様 お帰りなさいませ」
と 男女の使用人が何人も登場
内心 緊張感に 震えながらも
昨日の説教を思い出し
俺は 笑顔を心掛けた
旅館のように広い玄関の中央に
羽織袴の父上と 和装の母上が
キリリと 姿勢を正して
二人を 待ち構えていた
由香里さんは 俺に
「自分で 自己紹介なさい」
と 言い放った
俺は もはや 死ぬか生きるか
天国か地獄か 閻魔様の御前に
立たされた気分で こう言った
「松平 滋と申します 43歳です 父は警察官でしたが10年前に殉職いたしました 母と二人で 世田谷区の小さな持ち家で生活しています 〇△大学経済学部卒業後 由香里さんと同じ銀行に就職 以来 二十年 職場と自宅を往復する平凡な生活を送ってまいりました 女性と交際した経験は一度もありません 思えば 今まで 由香里さんのような素晴らしい女性に出会ったことがありませんでした 由香里さんが上司として転勤していらした瞬間から 僕は 由香里さんの魅力と実力に圧倒され 心の底から敬愛し お慕い申し上げておりました 僕は 由香里さんの力になりたい たった一度の人生 残された時間 一分でも多く 僕のエネルギーのすべてを由香里さんのために捧げたい そう決意して この度 由香里さんに 結婚を前提としてお付き合いしていただけないか 告白させていただきました どうぞ よろしくお願い申し上げます」
母上は
「まあ お上がりになって」
と 言った
父上は
「うむ」
と うなずいた
由香里さんの後について
長い廊下を歩き
母屋を出て 離れに到着した
「ほぼ合格したようなものよ」
由香里さんは 微笑みもせず
そう言った
「今まで 50人以上の男を家に連れて来たけど 玄関の敷居をまたぐことができたのは あなただけよ」
「えっ?」
「あなたが名誉や財産目当てじゃなく 私を大切にしてくれる人だと 一瞬でわかったからだわ」
離れで 一人
幸せな 夜だった
要点をまとめて
単刀直入に
笑顔 気遣い 素直
ウジウジしないで
一気に 関門突破
オンライン★説教
母ちゃん ノブちゃんの
様々な アドバイスが
俺を ここまで運んだ
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