偽作の館

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 人のざわめきが、そこにたまりを醸成しているようだった。大通りは、様々な人の往来で満ち満ちていた。疲れた顔、明るい顔、無表情。髭面、バタ臭い化粧面、うら若き面、そして、髭を剃っても、些か精悍さに欠ける僕の面。  人があまりにも多いので、肩と肩がニアミスを起こす。  今は晩秋の暮で、たなびく白い吐息はすぐに千切れて消えてしまう。これらの往来が作り出す情報が、僕の眼前に立ちはだかるので、視界はなかなか開けない。が、行き先はある。歩みを止めることは無い。  今日は、老若男女、貴賤を問わず、多くの作家が集められるパーティーがある。光栄なことか、はたまた数奇なに揺らされた為か、僕はそれの招待状を貰った。  だから、こうして、クローゼットの隅で眠っていたスーツを着て、少しは身だしなみを整えようとしたが、ショーウィンドウに映る自分の影を見る限りは、どこか落伍者めいた雰囲気を有している気がしてならない。  もうじき日没を迎える。大通りのあらゆる物体は、片方を橙に染め、もう片方に宵を携えている。丁度、この瞬間にのみ、夕暮れと、闇夜が同居していた。通りに居を構える商店や飯店は、燈火を強くし、人々の潜在欲求ないし、ありもしない渇きを挑発しているようだった。  きっとこれらは、あらゆる科学に裏付けされた商業戦略に基づいているのだろう。この無常たる市場には、もはや雅趣はおとぎ話さながらに。ただ、外来生物のように力強い、フランチャイズばかりが立ち並ぶ。
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