偽作の館

11/15
前へ
/15ページ
次へ
 古き良き時代に大作家はたしかに、模倣(オマージュ)をしただろう。しかし、それらは例外なく美しかった。だが、今この世に広がる白夜じみた、静謐さに欠けたる砂漠を見よ!  そこには、限りなく茫漠たる意識が横臥している。それらがこの枯れた大地の砂一粒ずつなのだ。したがって、どこで砂粒を拾おうとしても、そこにあるのは単なる正真正銘の砂粒であり、息を吹きかけようものなら、正真正銘、塵芥としてどこかへ消えてゆく。さながら、沙羅双樹の花の色にも劣る──比べることさえ烏滸がましき──色褪せようである。  さらには、この広大な荒れ地には、我が吐息より遥かに凶悪たる風神の息吹が、虐殺的な、無窮の渦を形成する。もし、これが荒れ地を蹂躙しようとするのなら、我々砂粒如きの陰惨たる砂漠鼠どもは、その干からびた口をせわしなくパクパクとさせ、降る筈もない雨垂れの潤いを待ち呆けるまま、豪風に飛ばされ、永劫の彼方へと消えていくか、昏き深淵へと誘われるか、偽りの雷神の脳が描き出した虚栄の彷徨したる海の藻屑となるしかないのである。  が、我々作家はこれにあらがわなければならぬ。荒れ地にも、ところどころに一筋の草が残っている筈なのだ。我々はそれを血眼になって探し当て、それにしがみつかなければならない。  それは、雑草かもしれない。或いは、根の短き新芽かもしれない。併しながら、その中にて、未来のユグドラシルたりうる、雲海の上を夢見ることのできる、強大なる種子より芽吹きたる一筋を掴まなければならないのだ。それには、悪魔契約さえ辞さない克己心がなければならぬ。それこそが、───────
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加