偽作の館

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 そのためか僕の心は、今迄忌み嫌っていた自衛的な建前との癒合を果たそうとしていた。 「お気遣いありがとうございます。これからも精進していきたく存じます」  この後、僕は老人といくつか文芸的な対話をした。好きな小説は何か、文学以外に好む芸術は何かなどの、知的な談笑だった。それはまるで、この世を薪にくべ、優しさが息を吹きかけた大火で暖をとるような心地だった。 「もしやZくんは煙草を吸われるのですか」 老人は丁寧な聞き方をした。 「ええ吸いますよ。大抵、赤マルですかね」 僕は、先ほど迄の会話で調子づいていたこともあって、こう得意げに話した。すると老人は先ほど迄の優しい表情とは一転し、侮蔑と憐憫の混ざり合ったような、かげのない目をした。 「今からでも止めといた方が良い。それは貴方にも、貴方の周りにもよくない。第一、作品さえも副流煙に侵される」  老人は比喩的な諫言を残し、この場を去っていった。僕はなんとも言えない心持になった。のみならず、頭痛さえも又、感じていた。僕は老人のアドヴァイスを真摯に受け止めようとも一度考えたが、それは泡沫の思念に過ぎなかった。  やはり、寛容は寛容であるために、不寛容に対しても寛容であるべきだろう。が、それは僕にも彼にも言えることである。今は只、僕のライフタイルと作品を一緒くたに否定されたことに瞋りを感じたし、なによりも哀しかった。  なにより僕の敬愛する、敷島をふかす短編作家をも、遠回しに批難されたような気がして──────
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