偽作の館

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 こうした光景を眺めたとき、何も感じないことが普通なのだろう。そうでなければ、情報の過食で、中毒を起こしかねない。だが、僕は思わずにはいられない。ガワとあんこのギャップの奇天烈さ、グロテスクさが、僕に留飲を発生させているようだった。  大通りの終焉の一歩前で立ち尽くした。そこは、曖昧な境界線上だった。消費と貯蓄。激流と、ドブだまり。こういった対比が頭をよぎり、一瞬間、侮蔑の念を抱いた。が、それはすぐに、いつも通りの自嘲と自虐に変わった。気づかぬうちに、眉間に皴を寄せていた。  僕は、それを振り払うように、首を二、三度左右に振り、こういった雁字搦めの思索を振り払おうとした。そして、おもむろに近くの喫煙所へと出向き、外套のポケットからマルボロを取り出して、安っぽいライターで火をつけた。普段よりも幾ばくか、紫煙を深く吸い込んだ。耐え難き心痛は、耐え得る毒で打ち消す。  二本目のシガレットを、六分目迄短くすると、火を消した。焦げたタールの香気が残留していた。僕の心に張り詰めた緊張は、火の暖かさと、ニコチンの効能で、幾分か和らいだように感じた。 ***
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