戸園瑞香

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「ただいま…」  疲れきった声。時間は午前一時を過ぎていた。 「あなた、おかえりなさい。お風呂暖め直しますから、先に入ってくださいね。」 あぁ、と返事しながら、父はネクタイを緩めた。荷物を置き、ソファに座る。相当疲れているのだろう。  洗面所へ向かう。扉を手を掛けると共に、違和感に気付いた。 「私、電気、付けっぱなしだったかしら?」 疑問に思いながらドアノブを回す。瞬間、廊下に鉄臭い匂いが広がった。あまりの匂いに顔をしかめる。匂いの原因を想像した。そして、愛娘の姿が見えないことを思い出す。 「…まさか、ね…」  風呂の扉を思い切り開ける。目に入ったのは、変わり果てた娘の姿と、赤く染まった風呂の水だった。
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