君と過ごす教室で

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「ああ、最近また感染者増えてきたわね」  手持ち無沙汰な様子でスマホをいじっていたマオウ様が呟いた。  これ以上外出できないのは勘弁だぞ、とサルが言う。  今年の春、新型ウイルスが発見された。それは瞬く間に全国に広がってオージたちの生活を変えた。常にマスクをつけ、外出もままならない生活。夏を超えて一度は落ち着いたものの、冬になってまた感染が拡大していた。 「でもさ、オンライン授業って楽だったよな。ギリギリまで寝ていられるし。俺なんて授業開始一分前まで寝てたぞ、すごくね」 「威張ることじゃないでしょう」 「いやいや、寝起き一分でパソコン立ち上げる俺の妙技はすごいんだぞ」  マオウ様が呆れたように息を吐く。  オージたちの学校は春から夏にかけて、外出規制に伴いオンラインでの授業が行われていた。サルが言っているのはそのことだ。 「学校まで来なきゃいけないってなると、早起きしなきゃ駄目じゃん? だるいよなあ。あーあ、もっかいオンライン授業になんないかなあ」  そこで、オージが突然立ち上がった。その拍子に椅子が倒れて大きな音がした。  二人の視線がオージに集まる。 「どうしたオージ、って、なんだよ、どうした!」  オージは立ち上がった勢いのままにサルの肩を掴んだ。前後にゆすぶられるサルはなさけない声を上げる。 「それだよ、サル!」 「それってどれだよ!」 「オンライン授業! オンラインなら、ヒメだって授業に参加できる! 病室でもインターネットの使用は可能だ! それならヒメと一緒に授業が受けられる!」 「お? おお? ――おおおお! たしかに! 俺って冴えてる! いいじゃん、オンライン!」 「ああ!」  二人はがしりと握手を交わした。  ヒメが病室で自分のパソコンを使っているのは何度か見ていた。春には彼女だって自宅からオンライン授業に参加していたのだし、設備は問題ないはずだ。 (ただ、彼女が参加したいと思う条件は――) 「俺、先生に相談してくる」  とにかく、善は急げだ。オージは教室を飛び出して職員室へ駆けようとした。しかしその背中にサルが待ったをかける。 「先生、今の時間は職員室いないぞ! 今だったら――、どこにいるんだ?」  すかさずマオウ様が付け加える。 「理科の準備室にいると思うわよ」 「助かる!」  オージは言うが早いか、廊下を走った。
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