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「あらあ、北大路くん、どうしたの。廊下は走っちゃだめでしょう。足音、響いていたわよお」
先生はいつもののんびりとした口調でオージを出迎えた。狭い理科準備室の隅に長方形のテーブルと、パイプ椅子が二脚。どうぞ、と促された椅子に腰を下ろしたオージは息をととのえて、先生を見る。
「最近また感染者出ていますよね、新型ウイルスの」
「そうねえ。都心はすごいわよねえ。怖いわあ。北大路くんも手洗いうがいは怠っちゃだめよ。あと大人数で遊ぶのもだめ。それから」
「先生、オンライン授業しませんか」
先生はきょとんとした。
「どうして? 外出が怖くなった? そうよねえ、最近の感染人数多いものねえ」
「そうじゃなくて」
「じゃあ、学校くるの面倒になっちゃった? なにか嫌なことでもあった? 悩みがあるなら聞くわよお。それが先生のお仕事だもの。そうそう、嫌なことと言えばねえ、先生昨日大事な資料にお味噌汁こぼしちゃってえ」
「先生」
この人の会話のテンポは独特だ。ああ、もう、と頭を掻いた。
「俺は、ヒメと一緒に授業を受けたいんです」
「ああ――、比米さんね」
先生は一瞬遠い目をした。
「そうねえ、あなた比米さんと仲がいいものね。でも、そうねえ、比米さんかあ」
比米さんと呟いて、困ったように頬に手を当てた。
「病院からでもインターネットは繋げられます。あいつはパソコン持っているし、オンライン授業なら参加できるはずです。だから、もう一回俺たちにオンライン授業をさせてください」
「そうねえ、私も比米さんには授業を受けてほしいし。彼女だけオンラインで入ってもらうことなら、すぐにできると思うわよお。でも――俺たち、とはどういうことかしら」
のんびりしているくせに、鋭い。
「俺たち全員、オンライン授業にしてほしいんです」
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