My pleasure

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会えなかった時を埋めるように抱き合い、気づけば夜は明けようとしていた。 腕の中におさまっていた深月は、隣で寝息を立てている恋人に安堵する。 秋月昴は、良くも悪くも自分に正直だ。 どんなに大切に想うがためと言っても頑として聞かず…こちらの弱さまで包んでしまう。 まだ今の段階でどこからも何の連絡も入らないということは、 マスコミを巻くことができたのか、事務所の誰からも、フロントからの連絡さえない。 二人にとっては久しぶりに二人きりで過ごせた時間だった。 「連絡をすれば会いたくなる。触れたくなるから、できなかった…」 それは、自分も同じだったけどそんな我が儘は言ってはいけないと思っていた。 ここにいるのをつきとめて会いに来てくれたのは素直に嬉しい。 かすかな陽光が差し込み、目を覚ました恋人に思いきり抱き寄せられる。 「!」 「…どこ行くんだよ」 擦れた寝起きの、低い声。 「どこも行かない。起きなくて大丈夫なの?」 「ん? あぁ、今日まで休みむしり取ったからな」 「…そう。わたしも今日まで」 「じゃ一緒に帰るか」 「そう、…したいけど」 一緒にいるところを誰かに見られたら…。 「そんな顔すんなって」 「ご、ごめん」 いけない、せっかく二人だけの時間を作ってくれたのに…。 ちゃんと笑わないと。笑ってないと。 「もっと俺といたい?」 不意にいたずらっぽく言われてぎょっとする。 「え? な、なんで…?」 「寂しそうだから」 「う…」 なんでそんなところだけ目ざといの。 「正直だな」 「な、なによ。からかいたいだけなら…」 「からかってねぇって。嬉しいんだよ」 「…昴…」 顔を上げると見つめていた瞳とぶつかる。 近づく顔に触れるだけのキスが落ちる。 「ん…」 名残惜しそうに唇が離れると声が出てしまった。 「…帰りたくないな」 「ん?」 だって帰ったらまた会えない日が始まって…。 人の目を気にしながら、会う日を楽しみにする生活になる。 「俺も、ずっとここにいたい…」 深くなってきた口づけにトンと指が触れた先が熱くなった。 どうして一瞬でも別れようなんて考えられたのか。 こんなにもこの人がいないと自分はダメなのに…。 二人のあり方に悩むわたしに彼は、心を決めたようだった。 待たせるかもしれねぇけど任せろという彼に抱きつくわたしは…。 何も知らず甘い恋に溺れていた。
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