第二章 第五話    モスクワの雪 1918年 秋

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「お帰りなさいませ。」  聞き覚えのある声がしたかと思うと、ドアが開き、不思議なことにそこには忘れかけていたお手伝いのリーザがいたのだった。  帝都を出るずいぶん前に辞めていたはずのリーザ。故郷のウラジオストクへ帰ると言って去っていったとチヨが話していたはずの。――  驚いているアナトリーとミハイルの様子に気が付いたらしく、 「ああ、すみません。付き合っている人がしばらくモスクワにいるっていうんで、ワタシもモスクワから動けなくて」  ふふっと笑って悪びれる様子もない。奥から出てきたチヨも 「あら、お帰りなさい。トーリャ。そしてミハイルさんも」  と告げるばかりだ。 「あ、うん。ただいま」 「ただいま戻りました」  そのまま二人が食堂へ入ると 「トーリャ、ミハイル君もお帰り」  と、グレゴリーもいつもと変わりない様子で、新聞らしきものを読んでいる。 「どういうことだよ。親父」 「どういうことというのは?」 「リーザはウラジオストクへ帰ったんじゃないのか?」 「私はよくわからんのだが、モスクワにいるんで、仕事もないし、手伝いに来てくれるんじゃないのかね?」 「親父じゃわかんないな……。おふくろ、どういうことなんだ?」
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