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屋敷の辺りが明るくなり始めていた。だが漂う靄のせいで、一瞬、強い日差しが差し込んでも、すぐに消えてしまう。季節は秋になろうとしていた。しばらくすると馬を連れたミハイルとアナトリーが、林を抜ける小道から現れる。
「少しはましな荷馬車になりそうだ、トーリャ。今度はトーリャが荷馬車を操ってくれ。馬車は扱えるよな?」
「おう、大丈夫だ、まかしとけ。なに、親父は休ませるさ」
「色々と悪いね、ミハイル君」
「グレゴリーさん、お気になさらずに。それにしてもこの馬を盗られなくてよかったです」
「だって、ミーシャが銃で追い払ったもの!」
唐突に元気なサクラの声が、荷台から聞こえる。身を乗り出して、ミハイル達の会話に興味深そうに聞き耳を立てていた。
思わず青年はため息を吐いた。
「ごめんな、アイツ、立ち直りが早すぎてさ」
「分かってる」
「パンに甘いジャム塗りたくって食って、一晩寝たら、もうケロッとしちまって。本当に誰に似たんだと思う? まさか、おふくろ?」
「さあな」
ミハイルは意にも介さず、出してきた馬を荷馬車のくびきに繋ぎ、脚と蹄を点検する。問題はなさそうだった。
「グレゴリーさん。モスクワまでまだ距離もありますから、ひとまず体力のある馬に変えておきます」
「すまんね」
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