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「ジーマも馬が大好きだったの。二人でよく馬の話をしたわ。私たち、子どもの頃から一緒に育ったんです。ジーマはいつも面白くて楽しい人でした。……実は私ね、母と上手く行ってないの。私は母には申し上げなければならないことを、申し上げているだけのつもりなのだけど、逐一、母の不興を買ってばかり。だから馬といると、ほっとしたのよ。」
ジーマとは、おそらく縁戚に当たる、美男子で有名なドミトリー大公のことだ。
それは、その立場でありながら、愛称で呼び合うほど親しかったということだった。
「そ、そうですね、自分もほっとします」
煩わしいことがあったときは厩へ行き、馬に話して聞かせるに限る。
ただそれだけで、気持ちは落ち着く。
「私、ロシア人なのに、母の意見で家では英語で喋らなきゃいけないの。時々、嫌になるんです。母は、もっと進んで、この国そのものに馴染むべきなのに」
オリガ皇女殿下の母君である皇后陛下は、英国のヴィクトリア女王の孫だがドイツ貴族出身で、ドイツから嫁いできている。されど、宮殿の一角に閉じこもり、ロシアに馴染もうとしないと噂になっていた。皇族の一員としての責務も果たせてるとはいえない。
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