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「なかったら、ですか」
オリガ皇女が静かに頷く。
そんなことを、今まで考えたことはなかった。
将校になることは、おそらく生まれたときから決まっていたのだ。
離れて住む実の母の願いとは裏腹に。
「そう、あなたが本当になさりたかったことって何かしら?」
したかったこと?
一体、何をしたかったのだろうか。
「殿下。自分は、そう、そうですね。勉学。そう、きちんと勉学を修めたかったしょうか。あとは……様々なところへ行ってみたいと存じます。一度、遠い外国で暮らしてみるのも憧れではあります」
「分かるわ。私だって、こんな立場じゃなかったら、できたこともたくさんあるから」
周りを憚るかの如く、皇女の言葉は英語に変わっていた。ミハイルは沈黙を守り、耳を傾ける。一介の少尉ごときには、それしかできない。
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