プロローグ      任官  1913年 秋

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「なかったら、ですか」  オリガ皇女が静かに頷く。  そんなことを、今まで考えたことはなかった。  将校になることは、おそらく生まれたときから決まっていたのだ。  離れて住む実の母の願いとは裏腹(うらはら)に。 「そう、あなたが本当になさりたかったことって何かしら?」  したかったこと?  一体、何をしたかったのだろうか。 「殿下。自分は、そう、そうですね。勉学。そう、きちんと勉学を修めたかったしょうか。あとは……様々なところへ行ってみたいと存じます。一度、遠い外国で暮らしてみるのも憧れではあります」 「分かるわ。私だって、こんな立場じゃなかったら、できたこともたくさんあるから」  周りを(はばか)るかの如く、皇女の言葉は英語に変わっていた。ミハイルは沈黙を守り、耳を傾ける。一介の少尉ごときには、それしかできない。
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