プロローグ      任官  1913年 秋

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「私は、多くを望んでいなかったつもりなのだけど、それも無理だったわ。好きな人と暮らせれば、それだけでよかったの。だけど大好きだったジーマとは一緒になれなかった。母は絶対に許してくれなかったから。結局、諦めるしかなかったの」  やはり、昨年、正式な婚約となるのではないかと、噂のあったドミトリー大公のことだ。  この場に大公がいないことが、全てを物語っていた。大公殿下は、今、近衛歩兵連隊部署におられる。  大公殿下は皇女の母親でもある皇后の大のお気に入りの、怪しい僧侶のラスプーチンを心底嫌っており、それが原因で婚約には至らなかったとか、或いは単なる皇女殿下の片思いに過ぎなかったとか。  流言(りゅうげん)ばかりで真相は不明のままだ。
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