プロローグ      任官  1913年 秋

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「そして、いつか母の選んだ人のところへ嫁がされる。本当はずっと、ここに、この国にいたいのに。でも、それも叶わないでしょうね。抗うか、(あきら)めるか。選択肢(せんたくし)は二つ。でも私は母に逆らえない。だとしたら私は全てを諦めるべきしかないの」  おそらく、オリガ大公女殿下は皇后陛下と違い、皇族としての責務(せきむ)を自覚しておられるのだ。  個人の願望より、優先すべきことがあるということを。――  ミハイルの胸は痛んだ。 「デミトフ少尉。あなたの願いもいつか(かな)いますように。少なくとも、少尉は私よりは自由だと思いますから。ここで生きていくことしかできない私と違って」  それは慰めるような慈愛(じあい)に満ち、心に()みる笑顔だった。
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