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運転している友人は楽しそうに笑っている。既に夏休みに入ったというのに、なぜか大学の制服の上着を羽織ったままだ。痩せているが、背は高く、黒い髪に黒い瞳の若者。
母親は、極東の日本から嫁いできていたと言っていたが、アナトリーに、その面差しは特段感じない。初めて聞いたとき、思わず「お母さんはゲイシャか?」とか尋ねてしまい、不興を買ったことは言うまでもなかった。ゲイシャではないそうだ。
その母親も、日露戦争直後は目立たないよう、心掛けていたという話だが、最近は、アナトリーの父親が経営する店で、仕事を手伝いつつ、主婦として暮らしているという話だった。
「まあ元気にしてるよ。そっちは?」
「俺は忙しいぞ。まずは、これから妹を迎えに行くところ。夏休みで家に帰ってくるんだ」
「妹?」
「そう、前に話したことあるだろ。マリア記念女学校に行ってる妹。中等部生」
「ああ、そういえば、そんな話をしていたな」
教育熱心で有名なお嬢様学校だ。
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