81人が本棚に入れています
本棚に追加
「今回は一人異動となりましたので、一人加えてくださいとお願いしてありました。父も……いえ、皇帝陛下も、若い方が配属になり、喜んでくださることでしょう」
「た、大変、光栄至極に存じます」
舌はもつれ、声も、わなないている。
だが着任のお祝いの言葉を告げた目の前のうら若き女性は、不可解なことに雅やかなドレスでも高貴な礼装でもなく、深青緑色の軍服姿だった。
しかも閲兵用ですらなく、通常任務の近衛騎兵軍装。
そして擦れ跡のある革ブーツに拍車。
あろうことか、一介の近衛士官と成り下がってしまっているのは、何故なのだろう。
「さて、このような場所ではありますが、ここでひとつ、皆さまへお願いをさせていただきたく存じます」
皆を魅了する美しく、やんごとなき女性の呼びかけに、上級将校たちは、耳を澄ませ、厳粛に控えたままだ。
「どうか皆さん、街へ巡察に参りましょう。ぜひとも私もご一緒させていただけますように」
水を打ったかのような静けさ。
その瞬間が終わると、脇に並んでいた連隊のそうそうたる面々が、うろたえ、互いに顔を見交わし、ざわつき始めた。
最初のコメントを投稿しよう!