第二章 第四話    デミトフ家 1918年 晩夏

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「グレゴリーさん。ここに長居はしない方がいい。明日の朝にはここを出ましょう。モスクワにあるという別宅へ急いでください。父にも早めに去るよう伝えます」 「いまいましい世の中になったものだね」 「正直に言うと、小作人たちも不穏(ふおん)な動きを見せていました。どうも村で集会をしているようですね。先ほど村近くまで馬で回ってきたときも、こんな時間に集落の方に灯りも見えましたし、興奮した大声が風に乗って聞こえていました。物騒(ぶっそう)な雰囲気です」  出入りの村の小作人でない年寄りの使用人たちでさえも、仕事を放棄し始めているのを感じる。給金が支払われなくなると思っている。適切に掃除もされず、食事やお茶のサーブすら(おろそ)かだ。 「おい! サーラは見つかったのか!」  廊下を歩いていたアナトリーが、こちらを見つけて走ってくる。 「こんな夜にどこへ行ってたんだ! 本当に探したんだぞ!」  兄も怒っているようだ。 「(うまや)にいたよ」  ため息混じりにミハイルが説明する。 「厩って、庭園の林の向こうだろ? 夜にまさかそんなところまで……いいかげんにしろ!」  サクラを(にら)みつけた。 「頼むから気を付けてくれ。昔とは違うんだ。一旦、ここから連れ去られたら、もう見つけることはできない」
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