プロローグ      任官  1913年 秋

4/17
前へ
/431ページ
次へ
「街? ま、参りましょうとは?」  突然の提案に、所属先の連隊長のシューキン大佐が、顔面蒼白(がんめんそうはく)仰天(ぎょうてん)していた。 「皆さまには、大変、感謝しております。ですが、私のような立場の者は、ときには街の様子も見なくてはなりません」 「見なくては?」  一同(そろ)って、混乱した眼差しを投げる。 「そ、それは……さすがに、最近、て、帝室の人間を狙うものも数知れず」 「私は皇女ですので、皇位継承権(こういけいしょうけん)はありません。万が一、死んでしまっても問題はないでしょう」 「万が一?」  シューキン大佐の顔が、一段と(あお)ざめる。 「何か起ころうと、どなたにも責任は問わないよう父にはお願いしてきました。陛下は娘の私には甘くていらっしゃるの。まあ、こういうことを許可するのもいいとは思えませんけれど」 「ほ、本当に街へ出られるのですか」 「何を驚いていらっしゃるの。私も一応連隊長ですよ」  面白そうに微笑んでいる。いたずらっぽい眼差し。  皆の反応を楽しんでいるようだ。オリガ大公女殿下は皇族なので、いわゆる名誉連隊長の職にあった。 「髪は切りましたから、じっくり見ない限り女だとは気が付かないでしょう」
/431ページ

最初のコメントを投稿しよう!

81人が本棚に入れています
本棚に追加