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「お付き合いしている方とモスクワにいることになったので、知り合いもいないし、時々でいいから遊びに来ていいかって」
チヨは少し微笑んでいる。むしろ旧知の友人に久しぶりに会ったかのようだ。リーザはウラジオストク時代に、ようやく探し出した読み書きのできるお手伝いさんだった。
「遊びに来るってか?」
「ええ。今は雇うことはできませんから」
「そりゃ雇えないだろ。それより、どうしてリーザがここを知ってるんだ?」
「故郷に着いたら、手紙を書きますって言われたから教えたの」
「何か企んでないか? 今まで食いもんを勝手に持って行ってたし。もうこっちだって食いもんもまともにないだからさ」
「あら、逆にキャベツとハムを分けてもらったのよ」
「キャベツ? ハム?」
「その恋人が農村出身なんですって」
「まったく、キャベツなんかにつられて、おふくろは」
だが奥からは、スープのいい匂いが漂っていた。キッチンからリーザが顔を出した。
「お食事用意しますね、同志たち」
「同志……? なんだそりゃ? まあ、雇ってないしな」
リーザが再びキッチンへ引っ込むのを見て
「大丈夫なのか。以前、いろいろ面倒な感じだっただろ」
ミハイルがアナトリーに問いかけた。
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