プロローグ      任官  1913年 秋

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 どもりつつ、ぎこちなく質問に答える。 「東洋の品物を扱っていらっしゃる店があるのね。いい絹があったら、ドレスにしてみたいわ。抜け道をつぶさに知っておられるのなら、助かります」  中庭に出ると、既に装備のすんだ馬が、整然(せいぜん)と並んでいる。  その中から一頭の見事な黒のアラブ馬が、皇女の前に引き出されていた。  いつも馬を連れ出している従卒(じゅうそつ)が、訳も分からず、ぽかんとして、オリガ皇女を眺めている。 「お借りしますね。シューキン大佐」  慌てて大佐が駆け寄るが、皇女殿下は(あぶみ)を踏んで、たてがみに捕まると、ひらりと、優雅(ゆうが)に鞍へ乗り上がった。  まだ、周りは呆気(あっけ)に取られたままだ。 「で、殿下、ほ、本当に行かれるのででしょうか」 「ええ、本当ですよ。お気遣いをありがとうございます」  (ほが)らかに微笑んで、手綱(たづな)を取った。
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