プロローグ      任官  1913年 秋

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 九月になり、ペテルブルグの街は、秋を迎えようとしていた。  深く青い空。  散乱する夏の陽光(ようこう)は和らいで、空には雲が流れるようになった。風は肌寒(はだざむ)さを伴う。  通り雨が過ぎ、荷物を載せた平底船が行き交う運河(うんが)水面(みなも)は、たよりなく揺れ光る。  ミハイルが着任したばかりの連隊では、オリガ大公女の一方的な提案で、完全な想定外だった市内の巡察(じゅんさつ)が行われていた。  進みゆく皇女殿下の乗った馬の前方をシューキン連隊長が、後方を副隊長が、ふさいでいた。一般人が通る歩道側はグレーコフ大尉がふさぐ。  道路側は、呼びつけられてしまったミハイルが馬を操っていた。左手で手綱を握り、右手は空け、すぐ拳銃(けんじゅう)のグリップが握れるよう、何度も、腰のホルスターへ手をやる。  身体は強張(こわば)り、背中を冷たいものが流れていた。  四方(しほう)を取り囲まれて、真ん中に位置する黒のアラブ馬は鼻面(はなづら)を上げ、(あし)を踏み鳴らし、(いさ)み足となっているが、涼しい顔でオリガ皇女は乗りこなしている。  一行は、先導(せんどう)する馬に従って、真っすぐ大通りは行かずに、ふいに中庭や路地へと入り、別の通りへ出るという変則的(へんそくてき)な進路が取られた。      
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