81人が本棚に入れています
本棚に追加
九月になり、ペテルブルグの街は、秋を迎えようとしていた。
深く青い空。
散乱する夏の陽光は和らいで、空には雲が流れるようになった。風は肌寒さを伴う。
通り雨が過ぎ、荷物を載せた平底船が行き交う運河の水面は、たよりなく揺れ光る。
ミハイルが着任したばかりの連隊では、オリガ大公女の一方的な提案で、完全な想定外だった市内の巡察が行われていた。
進みゆく皇女殿下の乗った馬の前方をシューキン連隊長が、後方を副隊長が、ふさいでいた。一般人が通る歩道側はグレーコフ大尉がふさぐ。
道路側は、呼びつけられてしまったミハイルが馬を操っていた。左手で手綱を握り、右手は空け、すぐ拳銃のグリップが握れるよう、何度も、腰のホルスターへ手をやる。
身体は強張り、背中を冷たいものが流れていた。
四方を取り囲まれて、真ん中に位置する黒のアラブ馬は鼻面を上げ、脚を踏み鳴らし、勇み足となっているが、涼しい顔でオリガ皇女は乗りこなしている。
一行は、先導する馬に従って、真っすぐ大通りは行かずに、ふいに中庭や路地へと入り、別の通りへ出るという変則的な進路が取られた。
最初のコメントを投稿しよう!