プロローグ      任官  1913年 秋

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   やがて隊列が小道から出て広い通りを進んでいると、ふと視線を感じ、警戒したミハイルたちは視線の(みなもと)を見つけようと見回した。 ――馬車。  (ほろ)のない馬車に、どこかの商家の夫人と(おぼ)しき中年の女性と十歳くらいの少女が乗っている。  大方、母親と娘といったところだろうか。  母親は前方を見ており、その顔は大きな帽子でよく見えなかったが、娘の方はこちらへ向き、身を乗り出して好奇心にあふれる黒い瞳で、こちらへ眼差しを注いでいた。繊細なアジア系の風貌だ。  頭には夏の名残(なご)りを(とど)める麦わら帽子。癖のある黒髪を左右のおさげに三つ編みにし、青色のワンピースの上に白いエプロンとケープを身に付けている。  女学校の生徒だ。  輪を描く(おく)れ毛が、初秋の風にそよいでいた。 「あら、女学校のお嬢さん」 ミハイルの隣でオリガ皇女が(ささや)いた。 「初等部の子かしら。もう学校が始まるのね」  だが少女は依然として、じっとこちらに視線を(そそ)いだまま離さない。そして、 「その真ん中の人、女の人でしょ!」  目を(みは)って、そう断言したのだった。      
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