3号室の会話

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3号室の会話

 ガタ、ガタガタ、ガタッ。 「サブリミナル効果って知っています?」 「……一瞬だけ画面に映る、みたいなやつか?」 「まあ、そうですね。実際効果を出すには、映像はより知覚出来ない方がいいらしいんですよ」 「効果?」 「生体に何かしらの影響を与えるようにする効果です」 「よく分からん」 「そうですね。例えば、車のCMで一瞬だけ『車を買え』とか、知覚出来ない秒単位で放送に入れ込む。そうすると、無意識に車を買いたくなってしまうとか」 「催眠術みたいなものってことか」 「まあ、そんなところです」 「それがどうかしたのか」 「それって、他人の死を操れると思います?」 「催眠みたいなもんなんだろ? 確か催眠で人は殺せない。自己防衛機能とやらが働くんじゃあなかったか?」 「そうですね。でも……」 「でも?」 「恋愛によって強迫観念を引き出すことができれば、あるいは……って」 「お前が何を言いたいのか、さっぱり分からない」 「まあ、思いついただけです。気にしないで下さい」  ガタ、ガタ、ガガタッ。 「……これ何だ?」 「3Dパズルっていう立体パズルですよ」 「お前も、こういうのやるの?」 「偶々、通販で届いたんです」 「偶々ねえ」 「……最近の通販って印鑑いらないんですね。玄関の前に置かれていました」 「俺は雨に濡れたりすると嫌だから、いつも『手渡し』で依頼してるなァ。普段あまり通販なんて頼まんけど」 「僕も嫌ですね。『玄関置き』。知らない間に持っていかれちゃいそうじゃないですか」 「“盗まれるかもしれない”ってのは確かに分かるな」 「……あとは、取り換えられるとか」 「取り換え?」 「違うものと、知らない間に交換されてしまったり」 「わざわざそんなことするやついるかあ?」 「まあ、そうですよね……」  ガタン、ガタガタ、ガタッ。 「……なあ、さっきから隣の部屋うるさくないか?」 「ああ。したかないんですよ。退去後の清掃で業社が入っているみたいで」 「隣の部屋空いたのか? まあボロアパートだしなァ」 「……自殺したみたいです」 「ああ……そりゃ気の毒に」  ガタ……。 「……あ、終わったみたいですね。少し待っていて下さい」 「ああ。どこ行くんだ?」 「隣の部屋を確認しに大家さんが来ると思うので。ちょっと話を」 「ん。行ってら」  友人との会話を中断し、3号室の住人は一人、外に出る。隣の4号室の前には、やはり大家が部屋の確認をしに来ていた。 「大家さん……4号室の(かた)、大変でしたね」 「まあ気の毒だとは思うけどねえ……正直こちらとしては困っちゃうよ」 「『事故物件』になってしまいますもんね」 「そうなんだよねえ……はあ……」 「ですよね。そこでご相談があるんですが」 「はい?」 「僕が4号室に住みます。そのかわり、事故物件ってことで……家賃、安くなりませんか?」 【了】
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