3人が本棚に入れています
本棚に追加
3号室の会話
ガタ、ガタガタ、ガタッ。
「サブリミナル効果って知っています?」
「……一瞬だけ画面に映る、みたいなやつか?」
「まあ、そうですね。実際効果を出すには、映像はより知覚出来ない方がいいらしいんですよ」
「効果?」
「生体に何かしらの影響を与えるようにする効果です」
「よく分からん」
「そうですね。例えば、車のCMで一瞬だけ『車を買え』とか、知覚出来ない秒単位で放送に入れ込む。そうすると、無意識に車を買いたくなってしまうとか」
「催眠術みたいなものってことか」
「まあ、そんなところです」
「それがどうかしたのか」
「それって、他人の死を操れると思います?」
「催眠みたいなもんなんだろ? 確か催眠で人は殺せない。自己防衛機能とやらが働くんじゃあなかったか?」
「そうですね。でも……」
「でも?」
「恋愛によって強迫観念を引き出すことができれば、あるいは……って」
「お前が何を言いたいのか、さっぱり分からない」
「まあ、思いついただけです。気にしないで下さい」
ガタ、ガタ、ガガタッ。
「……これ何だ?」
「3Dパズルっていう立体パズルですよ」
「お前も、こういうのやるの?」
「偶々、通販で届いたんです」
「偶々ねえ」
「……最近の通販って印鑑いらないんですね。玄関の前に置かれていました」
「俺は雨に濡れたりすると嫌だから、いつも『手渡し』で依頼してるなァ。普段あまり通販なんて頼まんけど」
「僕も嫌ですね。『玄関置き』。知らない間に持っていかれちゃいそうじゃないですか」
「“盗まれるかもしれない”ってのは確かに分かるな」
「……あとは、取り換えられるとか」
「取り換え?」
「違うものと、知らない間に交換されてしまったり」
「わざわざそんなことするやついるかあ?」
「まあ、そうですよね……」
ガタン、ガタガタ、ガタッ。
「……なあ、さっきから隣の部屋うるさくないか?」
「ああ。したかないんですよ。退去後の清掃で業社が入っているみたいで」
「隣の部屋空いたのか? まあボロアパートだしなァ」
「……自殺したみたいです」
「ああ……そりゃ気の毒に」
ガタ……。
「……あ、終わったみたいですね。少し待っていて下さい」
「ああ。どこ行くんだ?」
「隣の部屋を確認しに大家さんが来ると思うので。ちょっと話を」
「ん。行ってら」
友人との会話を中断し、3号室の住人は一人、外に出る。隣の4号室の前には、やはり大家が部屋の確認をしに来ていた。
「大家さん……4号室の方、大変でしたね」
「まあ気の毒だとは思うけどねえ……正直こちらとしては困っちゃうよ」
「『事故物件』になってしまいますもんね」
「そうなんだよねえ……はあ……」
「ですよね。そこでご相談があるんですが」
「はい?」
「僕が4号室に住みます。そのかわり、事故物件ってことで……家賃、安くなりませんか?」
【了】
最初のコメントを投稿しよう!