必要殺人事件

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 ピンチに陥った。本棚と本でクローゼットが開かなくなった。  我が家は地下室。通信はWi-Fi頼み。なのにルーターのコンセントが抜けたらしい。地上に声など届かない。助けを呼ぶ手段がまったくない。  ピンチだ。クローゼットに入ってから3日も経った。  食料なし、水なし、手がかりなし。  非常にまずい。大ピンチ。 「先生ー、いるー?」  ピンチ終了。 「助けてくれ七竈ちゃん! 開きっぱなしの本を閉じて、折れたページを直してくれ!」 「収穫ゼロだ。いたずらに本と体を痛めつけただけに終わった。収穫ゼロと口に出したら、心まで傷ついてしまった」  4リットル目のアクエリアスを飲み干しうめく。固形物を受けつけられる状態じゃない。手足背足腰が固まっている。  七竈ちゃんが「向いてないんだよ」とほざく。  助けてくれたことには感謝する。  それはそれとして腹が立つ。  俺がプロであるのを伏せているため、ことの次第も大いに伏せたせいだろう。  しかたない。貴重なネタ元だ。許してやる。 「そんなのより、「燃えよ剣」みたいなの書いてよぅ」  許されざる暴言である。  誰でも司馬遼太郎になれてたまるか。
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