必要殺人事件

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「どこを解読するのこれ」  眉をひそめたままである。 「いや、どこって……。どこかわかったらもう解けてるよ。クローゼットで3日考えた。なのに丸きりわからない。送り主を説明すると」  胃袋が痛みを訴えた。  明治の板チョコを冷蔵庫から取り出す。 「小学二年生の女の子。学校図書館に置いてあった俺の作品を読んで、暗号を投稿」  銀紙を剥がす。シャリシャリと鳴る。 「そのせいか差出人欄も学校。学年クラス名前が書いてあったよ。学校にどんな生徒か聞いてみたら――。ああ、そりゃあヒントがほしくて聞いた。聞いたけどズルじゃない」  かじる。パキッと硬質な物が割れる音。 「普通の子だってさ。校内でも校外でも、特に問題は見られない。以上」  チョコレートが口内を塗りつぶす。  べたべたとした背徳的甘さ。  まっすぐな隻眼がこちらを見ている。 「だからさ、先生」  七竈納は 「だから、これ、暗号じゃないよ」  真実を放った。 「え、ああ……。なんだ、そういうことか」  直感的に、俺は真実と理解した。 「助けに行かなくちゃ。先生、一緒に来てよ」  俺は植民地支配菓子を食べ続ける。
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