熱いよ

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熱いよ

 眠るリシュエルを、ルーヴストリヒトは飽きもせず見守っていた。  抜けるように白い肌、ふわふわとウェーブのかかった柔らかそうな金色の髪、ぽってりとした唇、ふっくらと可愛らしい頬、今は閉じているが、少し目尻の垂れた、琥珀色の瞳。  これまで、ルシファーの直系ということもあり、同族に言い寄られることひっきりなしのルーヴストリヒトであったが、当人は全くそうしたことに興味がなく、動物たちや木々の方がずっと好きだった。そんなルーヴストリヒトが、初めて強烈に惹かれた。相手が天使だとか、そういうことはどうでもよかった。いつ自分に危害を加えるかもわからない天敵を前に、信じ切って無防備な寝顔を晒しているこの愛らしい生き物を、自分は守らなければいけない、なぜかそう分かっていた。 「ん……」  リシュエルが身動ぎをして、重たげにまぶたを開いた。 「どう? 少しは楽になった?」  ルーヴストリヒトが聞くと、リシュエルは気怠げにはぁ、と息を吐いた。 「なんか、身体が熱くて、頭がぼーっとする……」 「ん? まだ熱、下がってないのかな……。そういえば、お前、名前は?」 「……リシュエル」 「リシュエル、か。俺はルーヴストリヒト」 「ルー……?」 「ルーヴでいい。親しいものは皆そう呼ぶ」 「ルーヴ……」 「ん。けど、なんとかして熱を下げないとな……」  ルーヴストリヒトがリシュエルの額に触れると、リシュエルがビクッと身体を震わせた。 「んッ、……」  リシュエルの身体を何かが走り抜けた。 「どうした? どこか痛む?」  慌てて手を引っ込めたが、リシュエルは首をゆるゆると横に振るも、はぁはぁと切なげな吐息を零している。 「痛くはねーけど……なんか、熱くて……」  熱が引いていないのだとしたら、これ以上は手の施しようがない。魔族にはよく効くブラッドベリーも、天使に効く保証はないのだ。痛むわけではないと分かったので、何もしてやることができないルーヴストリヒトは、せめてもの思いでリシュエルの肩をさすった。  と、ルーヴストリヒトの手が触れた途端、リシュエルがビクビクと身体を跳ねさせ、熱いため息を溢した。 「ッあ、ふぁ……ッ」  鼻にかかった甘えるようなリシュエルの声は、ルーヴストリヒトの身体にあらぬ熱を灯していく。  ——もしかして……  この反応に、ルーヴストリヒトは一つ思い当たることがあった。ブラッドベリーも、魔族の若い者は食べすぎると中毒になることがあるのだ。酒に酔ったようにハイになったり、気分が悪くなったり、ごく稀にだが発情を促進したりしてしまうのである。彼らよりもさらに無垢な天使のリシュエルに、ブラッドベリーが作用しているのだとしたら……  リシュエルのそばに座って考え始めてしまったルーヴストリヒトに、リシュエルが本能のままに腰をすり寄せた。 「ッ……」  リシュエルの身体を包む薄絹越しに、はっきりと兆しているものの存在をルーヴストリヒトは感じた。 「苦し……ルーヴ、熱いよ……」 「リシュ……お前、」  はぁ、はぁ、としどけなく吐息を漏らすリシュエルは、琥珀色の瞳を涙で潤ませ、その肌は上気して薄桃色に染まって、どうしようもなくルーヴストリヒトを煽る。リシュエルはルーヴストリヒトに腰をすり寄せながら、その手を取って、自らの頬に押し当てた。 「ルーヴの手……冷たくて気持ちー……」  熱が下がっていないわけでもない。どこか痛むわけでもない。ただ、ブラッドベリーの作用で、リシュエルははっきりと発情していた。
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