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そして当日。案の定チョコは余ったけど、聖悟になんて渡す訳がなく。「自分で食べよ」なんて思いながら、近所で唯とバイバイをしようとした瞬間、また背後から声がした。
「あっ、汐魚だ。なんか太った? さてはチョコ食いすぎたな」
開始三秒で腹立つ男に前言撤回しようと思う。
「アッモテモテ天才少年ダー。
今日はさぞたくさんチョコ貰ったんでしょうねー」
「うるせぇよ。自分で作った方が美味いからいらないし」
「えっ、佐藤くん、貰ってないの?
じゃあ、汐魚、佐藤くんにチョコ作ったんだから! 貰ってあげて!」
ま、待って唯! そんな抵抗もむなしく、唯は勝手に私の鞄を開けてチョコを取り出す。
「はいっ、せっかく作ったんだし!」
そりゃそうだけど……。
こうなったらもうヤケだ。私はそのチョコを、ぶっきらぼうに突き出した。
「ま、まぁ、いつも教科書借りてるし……。
聖悟からしたら美味しくないだろうけど、はいっ」
どうせ馬鹿にされるんだ。少しでも傷つかないために、私は聖悟の顔を見ないで渡す。
……あれ、反応がないぞ……?
そう思っておそるおそる聖悟のほうを見ると、聖悟は、目を丸くして固まっていた。ゆっくりと口が開く。
「あ、ありがと……」
な、なにその顔!!
「なんかお似合いですな~」
そんなんじゃ……! 茶化す唯に慌てると、聖悟も必死に反論する。
「高橋うっさい! そういうんじゃねーから!
てか、コイツの名前シオだぞ!? 結婚したらサトウ・シオとか、面白すぎるわ!」
は、はぁっ!?
「佐藤くん、私、そこまで言ってない……」
「私鈴木魚店継ぐから、婿を取るって決めてるもん!」
「汐魚は論点ずれてる」
「はぁ!? セイゴがスズキになったら出世魚じゃねーかふざけんな!」
「しゅっ、出世魚ウケる……!」
「もう、突っ込むの疲れてきた」
勝手にやってと言い残して唯は帰った。聖悟はといえば「今度手本を見せてやるよ」と抜かして、家に戻っていった。
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