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「いってきまーす!」
「おう。今日はたこ天作っとくぞー」
「ほんと? やったー!」
店先に立つお父さんとそんな会話をして、私はご機嫌に家を出た。
……奴に、声をかけられるまでは。
「お、生臭いと思ったらやっぱり汐魚だ」
「朝からなにか用?」
「別に。まぁ強いて言うなら、うちの隣が魚屋って、甘い香りが魚臭さで台無しだなぁと」
そう言って、自分んちのケーキ屋を指さす聖悟。開始十秒でもう腹が立つ。
「後から来たのはそっちでしょ!
なにが天才パティシエ少年なのよ、中身はまっ黒こげのくせに!」
「うるせーたこ天女」
「た、たこ……、たこ天を馬鹿にするなぁー!」
「ツッコミどころそこかよ、やっぱ汐魚は阿呆だな」
三歳からの幼馴染・聖悟は、いつの間にか超ムカつく意地悪男になっていた。そのくせ『天才パティシエ中学生』なんて言われるようになって調子に乗ってて……。
「もう、本当に腹立つ!」
今朝のことを話して肩で息をする私を、唯はなだめる。
「まぁまぁ。でも、汐魚が教科書忘れたとき貸してくれるじゃん。
汐魚は佐藤くんに友チョコもあげないの?」
「あげるわけないじゃん!
鼻で笑われてごみ箱行きに決まってるし」
「汐魚の中の佐藤くんはどうなってるのよ。
まぁあげるかは当日決めることにして、よかったらうちで一緒にチョコ作ろうよ!」
そんなこんなでバレンタイン前日。私は唯の家で、なぜかいつもより多めにチョコを作る羽目になっていたのだった。
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