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この世で一番、会いたくなかった人
高村なつめは、入学式の日に受け取ったチラシを見ながら、ある教室を探していた。
大学一年の春。上級生たちはなんとしても自分のサークルに新入生を獲得しようと、互いに押しのけ合いながら勧誘にやってきた。断るのも申し訳ないと思って端からチラシを受け取っていたら、それだけで鞄が埋まってしまったほどである。
女性にしては背が高いせいもあって、スポーツ系の部活やサークルにも大変よく誘われたし、文学部だからか伝統芸能系のサークルからも誘いがあった。
サークル活動として特別にやりたいことはなかった。ただ、高校までとは違って情報が入ってきづらいから、どこかにコミュニティを作った方がいい、特に、お前のような友達付き合いの悪い奴は。と言ったのは、なつめの兄だった。一言余計だったので一発殴っておいたが、前半部分は耳を傾けるべきだと感じた。
勉学のこと、就職のこと、場合によっては留学のこと。一般的な情報はいくらでもネットで手に入るこの時代でも、身近でリアルな情報もそれはそれでほしい。その程度のものだった。
なつめが選んだのは、文芸サークルだった。詩や小説を書く趣味はないが、チラシに本を読むだけでもいい、と書かれていたのが決め手だった。本を読むのは好きだった。だから、英米文学なんていう、現代の日本社会において斜陽もいいところの学科を専攻している。
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