見てないし、わからないし、覚えてない

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 優奈は言いながら鞄の中身を眺めて、目を丸くした。 「あれっ」 「どうしたの?」 「スマホない。さっきの教室に忘れてきたんだ。やっちゃった」  そして、勢いよく頭を下げる。 「取りに行ってくる。なっちゃんはお昼食べてて」 「一緒に探しに行くよ?」 「だめだめ! なっちゃんは次も授業でしょ。早くしないと食堂いっぱいになっちゃうよ」  確かに、学生数に対して、この大学の食堂はあまりにも狭い。昼休みになるとあっという間に満員になってしまうのだ。彼女の言は正しい。 「ごめんね! 明日は一緒にお昼食べようねー!」  優奈はなつめの答えを聞く前に元気に手を振って駆け出しいってしまった。ポニーテールが兎のしっぽのように揺れていて、走り去る姿まで愛らしい。今まで周りにいなかったタイプなので、新鮮だ。  あんな風に可愛い女性になれたら、違った道があったのだろうか。  なつめはため息をついて頭を振った。自分と彼女は違う。自分は彼女にはなれない。
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