見てないし、わからないし、覚えてない

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「ごめん、何を言っているのか」 「タイミング最悪だって言ってんのよ」  理由のわからない唐突な罵倒の言葉に、少なからず怯んでしまう。なつめは孝史郎の顔を見て、言い過ぎたことに気づいたのだろう。はっと我に返った。 「ごめんなさい……」  彼女は明らかに冷静ではなかったが、それでも心底申し訳なさそうな顔をする。自分を責めている顔だ。こんな時まで孝史郎を気遣っているのかと思うと、鎮めていた気持ちが膨れ上がるのを感じた。 「いや、全然、気にしないで。それより、その指輪」 「忘れて」 「でも、だってそれは」 「お願いだから」  必死の懇願に、もう何も質問することができなくなった。なつめは、消え入りそうな声で最後にこう言った。 「取り返してくれて、ありがとう」  それは、昔ぼくがプレゼントしたものだよね。  そんな質問は、孝史郎の胸の内で浮かんで消えた。口に出すことはできなかった。
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