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「そう思いますか」
「うん」
「でも、昔、別れようって言ったのは彼女の方なんですよ」
「ふーん?」
「ぼくはすっかり愛想を尽かされたのだと思っていました」
「愛想を尽かされるような何かをした覚えがあるんだ?」
さすが司、容赦なく斬ってくる。こういう時の司は、とんでもない悪人のような顔をする。古傷がえぐられた。無論、足ではなく心の方だが。
「意外だなあ。久坂君、女の子に優しそうなのに」
「そうですか?」
「そうだよ。ま、人を好きになると良くも悪くも普段通りではいられなくなるよねえ。で、なんで別れたの?」
「彼女ははっきりと理由を言ってはいなかったんですけど、ぼくの心当たりとしては」
「ほうほう」
「ぼくが部活にかまけて、全然彼女を顧みなかったからです」
司は、それ以上続きがあるのかと身構えていたが、孝史郎が黙ったのを見て、何故か残念そうに目を細めた。
「なんだ。それだけ?」
「十分じゃないですか? 中学生のお付き合いなんて、一緒に遊んでこそでしょう。まあ、いくつになっても同じことか。一緒にいられなくなったら、それでおしまいですよ」
「もっと劇的な展開があるのかと期待しちゃったよ」
「ご期待に添えず申し訳ない」
「実は久坂君が三股かけてたとかさ」
冗談だとわかっていても、孝史郎は顔をゆがめずにはいられない。
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