この世で一番、会いたくなかった人

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 そこまで言われて無視することはできない。覚悟を決めて振り返った。ああやはり、という思いと、どうしてこんなところでまで、という思いがせめぎあう。  外見は、記憶にあったものから随分と様変わりしていた。どちらかというと小柄だった身長は大きく伸びて、ロングカーディガンにスキニ―パンツと、左耳にはピアスが光り、いかにもおしゃれな大学生といった風貌だ。極めつけには、眼鏡をやめて優しい眼差しを惜しげもなくさらしている。  まるで若者向けの雑誌から出てきたように見えたのは、なつめの気のせいではなく、周りの女性たちも目を輝かせていた。  会わないでいたのは高校三年間の間だけだったのだが、一人の人間の外見を変えるには十分すぎたようだ。本人にもその自覚があるらしく、遠慮がちな目をしている。 「覚えてくれてるといいんだけど……ぼく、久坂孝史郎(くさかこうしろう)です」  華やかな外見に似つかわしくない、穏やかで控えめな声が胸に刺さる。  覚えてくれてるといいんですけど?  なめんじゃないわよ。  こっちは、「あれ」からずっと、ずっとずっとずっと。  あなたのことを。  穏やかな顔をしていた孝史郎が、驚いて目を丸くする。その顔を見て、なつめはようやく自覚した。自分が明らかに冷静さを失っていることを。  なんなら、涙さえこみ上げてきそうだった。泣いてやろうかと思った。今ここで泣いて見せれば、このどうしようもない男を最高に困らせてやることができるに違いない。  しかし、できないのだ。こんなところで泣けるほど可愛らしい女には、なれない。だからこの恋はあの時、終わったのだ。 「あの、高村さん?」  気遣わしげな目で見つめられる度に、名前を呼ばれる度に、胸が高鳴る。涙があふれそうになる。  呼ばないで。  そんなに優しい声で、私の名前を、呼ばないで。
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