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狭すぎる世間
次の観望会までの間に、優奈にきちんと伝えておくべきだ。
孝史郎とのことを、優奈にひた隠しにするつもりはなかった。ただ、あの観望会の時は、孝史郎の前で昔の話をしたくなかったのでタイミングを見失ってしまったのだ。そして、孝史郎本人は無論のこと、司も事情を知っていそうだったし、もしも何かの拍子に他の人間の口から聞かされたら、優奈もなつめに不信感を抱くだろう。
そう考えた、ある昼休みのことだった。
「……へっ?」
優奈がなつめの顔をまじまじと見つめている。
「どういう意味?」
「そういう意味」
「え? 久坂君と、なっちゃんが?」
「うん。中学の時に別れたきりだけど、一応付き合ってた」
次の瞬間の優奈の驚きは、叫び声に近かった。食堂の学生たちが一斉にこちらを振り向いた。さすがに自覚したようで、優奈は自分の口を両手で塞ぐ。そして、今度は消え入りそうなほど小さな声で囁いた。
「ごめんすごくびっくりしたから」
「そうね。私もびっくりした」
「世間って、狭い……あの、な、なんで別れたの?」
孝史郎に実は何か問題があったとなると、優奈の今後に関わってくるだろう。なつめも、孝史郎の名誉をあえて傷つけようとは思わない。
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