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「別に彼が何をしたってわけでもないの。中学生にありがちな、自然消滅ってやつ。向こうは部活で忙しかったし、会わなくなったら、そのままさよならって感じね。まあ、強いて言うなら、気の利いたことはあんまり期待しない方がいいっていうくらいかな。こないだも言ったけど、本当に悪い人じゃないの。だから、優奈はそれでいいと思う」
優奈は、くわえていたストローから唇を離した。
「なっちゃんは、久坂君のことはもういいの?」
「うん。全然関係ない」
「あんなにかっこいいのに」
なつめは思わず笑ってしまった。反応に困る。肯定もしづらければ、否定すれば優奈の趣味が悪いということになってしまうではないか。
孝史郎の中学時代は背が低く、あまり目立つタイプではなかったので、人気があったという記憶はなかった。今では随分と女性に好かれるらしい。
「そうだなあ。かっこいいって言うなら、和泉さんだってそうだと思うけど、優奈はその気にならないんでしょ? それと一緒よ」
「はー、そっかあ。なるほど?」
いまひとつ納得していないようだが、無理やり理解しようとしている、そういう顔だ。
「ごめんね。なんか変な風に気を遣うことになっちゃって。でも、私が言わなくても誰かから何か言われるかもしれないし、ちゃんと聞けた方が優奈はすっきりするかなと思って。どう?」
「うん、話してくれてありがとう」
「私の方こそ、聞いてくれてありがとう」
これで、孝史郎にと恋人ができて、彼がなつめのことを忘れてしまえば、自分も忘れられる。きっとそうだ。
なつめはその望みにすがるしかなかった。
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