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なつめは懸命に本音を押し隠して、微笑んで見せた。
「ああ、ごめんなさい。驚いちゃったの。こんなところで会えるなんて、奇遇ね」
うまく笑えているだろうか。こんな言い方は、不自然ではないだろうか。
「ぼくのこと、わかる?」
「わかるわよ。ちょっと見た目が変わったみたいだけど」
「よかった。わかってもらえないこと多いから、ほっとしたよ」
だからなめないで。
私を、あんたのお友達と一緒にしないで頂戴。
そんなことを心の中で怒鳴ったところで、意味がないのはわかっていたけれど。
「何? 二人、知り合いなの?」
女性の先輩の一人が興味深そうに尋ねてきた。平常心を保っていないなつめの代わりとばかりに、孝史郎が人の好さそうな顔でうなずいた。
「はい、中学の時の同級生です」
「中学? すごーい! 完全に偶然?」
「はい。中学の時以来なので」
「それでよくわかったねー、久坂君!」
中学生と大学生では、顔が随分と変わってしまう。特に女性は顔つきだけでなくファッションが変わるし、今のなつめや先輩たちのように化粧を嗜むようになると、最早中学時代とは別人のようになる。
「そうですね。どうしてわかっちゃったんでしょう」
「なにそれ~!」
「ほらほら、せっかくの再会なんだし、おしゃべりしなよ」
先輩方は気を利かせたつもりのようで、なつめの隣の椅子を孝史郎に譲った。最悪だ。
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