ナツメノハナ

狭すぎる世間

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　金曜日がやってきて、スピカの観望会の日だと思い出したが、なつめにはもう参加するつもりはなかった。だからといって、以前顔を出した文芸サークルに行く気にもなれず、他を探すのも面倒になってしまって、結局、サークル活動には参加せずに終わりそうな気がしている。

　ただ、気にかかることはあった。観望会に参加した水曜日以降、持ち歩いていた指輪が見当たらないのだ。

　人とぶつかって落としたあの日に、ちゃんとチェーンを変えておくのだったと後悔した。気が付くとチェーンは外れるどころか切れていて、ぶらさがっていた指輪は当然、忽然と姿を消していた。

　大学からの帰り道や、授業を受けた教室、廊下、探し回ったが見つからない。小さな指輪など、落としたらどこまで転がって行くかわからないし、もうとっくにゴミ箱なり排水溝に飲みこまれてしまった後かもしれない。

　これを機にすっぱりと諦めた方が良いのだと、頭ではわかっていた。それなのに、もう手元に戻らないと思うと耐えがたく、ここ数日で訪れた場所を行ったり来たりするのをやめられなかった。