狭すぎる世間

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 そうしているうちにふと思い出す。そういえば、スピカの部室と屋上は、探していない。どちらも鍵がかかっていたからだ。部室には高価な望遠鏡が保管されているし、屋上はいつでも誰でも侵入できてしまっては危険だからだろう。  もう一度、観望会に参加しようか。  そうすれば、部室と屋上を見て回ることはできる。前回のことを考えれば、優奈は孝史郎にべったりだろうし、彼と顔を突き合わせる必要はあまりないだろう。しかし、優奈は内心不愉快に思うのではないだろうか。いくら今は関係ないとはいえ、元恋人が周りをうろうろしていたら、自分なら、どう感じるだろう。  一人で考え続けた結果、忘れ物を取りに来たと言ってごまかすことに決めた。サークルは他で決まっていると言い張って、観望会には参加しない。屋上は探さない。部室になければ諦める。よし、そうしよう。  やることが決まれば少し心が楽になった。なつめは金曜日の夕方、まっすぐスピカの部室へ向かった。和泉さんが鍵を開けてくれていますように。一年生で授業をぎゅうぎゅうに詰め込んでいるなつめよりも、上級生である司の方が早く授業が終わっているはずだ。そう信じるしかない。司に見つかったら玩具にされるかもしれないが、自分がうかつだったのが悪いのだから、それくらいは我慢しよう。  なつめの願いは、半分だけ叶った。
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