狭すぎる世間

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 部室の扉は古いが、すりガラスが入っていて中に人がいるかどうかくらいは分かるようになっている。電気がついていて、人影が見えた。鍵は開いているようだ。なつめはあまり深く考えずに、ノックをして扉を開けた。  小さな机に隣り合わせに座ってノートを広げているのは、優奈と孝史郎だった。司はいない。確かに小さな部屋だが、椅子は六つある。距離を取ることは十分にできるはずだ。それでも隣同士で、肩と肩がくっつくほど寄り添っている。 「なっちゃん! 来てくれんだー!」  優奈が百点満点の笑顔で手を振っている。一方、隣にいた孝史郎の表情は凍り付いていた。  やめておけば良かった。  諦めれば良かった。あんな指輪にすがりつく愚かな自分に、神様が罰を与えたに違いない。しかし、記憶はどうやっても削除することはできない。  優奈が頑張れば良いと思ったのは本心だ。嘘はない。ただ、二人の仲が進展するのを間近で見て心穏やかでいられるほど、ふっきれてもいない。もう別れてから何年も経つのに。自分にうんざりする。 「ああ、違うの。ちょっと探し物に来ただけで。今日は用事があるからすぐ帰るね」 「えー、そうなの? 残念。探し物って何? 一緒に探すよ」 「大丈夫。本当にすぐ済むから。それより勉強、進めたら?」 「あう……がんばります……」
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