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絶対に好きにならない人
学生三百人ほどが入れそうな講堂での授業は、どうしても集中が続かない。なつめは頭を抱えていた。
講師に聞こえないと思っているのか、私語に勤しむ学生があまりにも多いからだ。講師も講師で、高校までとは違っていちいち学生の私語をとがめたりはせず、ひたすら自らの責務を全うしている。つまり、授業という名の演説を続けている。
文化人類学などという、ただでさえなじみのない学問についての話を、雑音の中で理解する作業は、あまりにも困難だ。なつめは頭痛を覚えながらも、どうにかメモを取り続けていた。講師の言葉通り、人間の世界は三つに分けられる、とまで書いて目を閉じた。自分でも書いていることの意味がわからない。もううんざりだ。配布されるプリントだけで理解できる授業にしてほしい。切実に。
そんな授業の途中で、急に隣に誰かが座った。友人が遅れてやって来たのだろうか。不思議に思って顔を上げて、目を丸くした。
にっこりと笑っているのは、和泉司だったのだ。右手には開いたままのノートとシャーペン、左手には鞄があるので、今教室に入って来たというわけではなく、席を移動してきただけのように見受けられる。司はなつめの隣でノートを広げ、何食わぬ顔で授業を受け始めた。
何事だろうか。
あの観望会でのやりとりだけでも、得体が知れないというか、少々怖い人、という印象を受けてしまったので、どうしても構えてしまう。
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