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そう言われると、どうだろう、と少し迷ってしまう。もう忘れてしまったほうがいいのかもしれない。なつめが未練がましく指輪なんて持ち歩いているせいで、孝史郎も気にしてしまうのだということはわかっていた。
ただ、司が持ったままでいるのは何かと心臓に悪い。もう家から持ち出さないとしても、捨てるとしても、返してもらうべきだ。なつめはうなずいた。
「返して、いただきたいです」
「俺はねえ、これが何か知ってるんだよね」
「何かって?」
「君がこれを誰に買ってもらったのか、とか」
それは間違いなく孝史郎からの情報だろう。そんなことまで他人にべらべら話したの、と内心孝史郎を責めてももう遅い。笑顔の素敵な先輩は、楽しそうになつめを見つめている。彼には、愉快な玩具を渡してしまったようだ。
「これからは、あんまり持ち歩かないほうがいいかもしれないね。俺みたいな悪い奴に拾われちゃったら大変だから」
「……返してもらえないんでしょうか」
「もちろん返してあげる。その代わり、俺のお願いを一つ、聞いてくれる?」
予想はしていた。予想通り過ぎて涙が出そうだ。
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