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土曜日朝九時半に駅前集合。
完全に弱みを握られてしまったなつめに、拒否権はなかった。司のことを嫌ってはいない。ただ怖い。
待ち合わせ時間の五分前に着くと、もうすでに司は薄い文庫本を読んで待っていた。何を読んでいるのか少し気になったが、本屋のカバーがかかっていてわからない。
「すみません、お待たせしました」
「まだ五分前なんだから、謝らなくていいよ。行こうか」
司に連れられてやって来たのは、映画館だった。見る映画はなつめが選んだものの、後は黙っていても司が全てエスコートしてくれる。何度自分で払おうとしても断られ、挙句、飲み物は、と聞かれて、アイスティーで、と一言告げただけで一分後には手元に冷たいカップがあったことには驚いてしまった。
話題沸騰の恋愛映画を華麗に無視して硬派なミステリー映画を選んでしまったため、土曜日の朝だが客席はまばらだった。映画が始まるまでの間、話をして時間を潰す。
「なんだか、すみません。全部やってもらっちゃって」
「何言ってんの。デートってこういうものでしょ」
「そうなんですか? デートっていうか……高級な旅館かホテルに来た気分です」
「旅館?」
「昔、何かの記念日に特別にって、家族でそういうところに泊まったことがあるんです。身の回りのことも全部お世話してくれる、そういうところ」
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