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直後、先輩たちは、新しくやってきた新入生のところへ向かった。必然的に、なつめは孝史郎と二人で話すことになってしまう。
孝史郎は遠慮がちに声をかけてきた。
「久しぶり」
「……そうね」
「……あの、怒ってる?」
「それがわかってるならどうして声をかけたのよ」
「こんなところで会えたのが嬉しくて……あ、でも、不愉快だったなら、謝る。ごめん」
孝史郎は、すみません、と、大きな体を縮めている。なつめはため息をついた。
「こんなところで会うことになったのはびっくりだわ。どうして文芸サークルになんかいるのよ? バレーはどうしたの?」
責めるような口調になってしまったことを、なつめは後悔した。バレー、と聞いた時の孝史郎が、明らかに悲痛を耐えるような顔をしたからだ。
「バレーは、中学の時にやめたよ」
それがどれだけ重い言葉か、なつめは知っていた。彼がどれほどの思いで打ち込んでいたのかは、かつて嫌というほど思い知らされたのだ。文字通りすべてを賭けていた。自分の体までも。
「……怪我、治らなかったの?」
「いや、日常生活には支障がない程度には回復したんだよ。でも、ハードな運動はもうだめかなあ」
彼は中学時代、男子バレー部のエースアタッカーだった。あの頃はそれほど身長が高くなかったのに、とんでもないジャンプ力で誰よりも高い場所からスパイクを打てた。
しかし、それがあだになった。バレーボールは過酷なスポーツだ。何度も何度も飛び上がっては着地することで、足や腰を痛める選手は後を絶たない。そして彼は、子供のころから目標のためには努力を惜しまない人間だった。右の足首の靭帯断裂で病院に行ったら、膝も壊していることが発覚した、というところまでは、なつめも知っている。
今にして思えば、必然の出来事だったのかもしれない。
バレーボールがすべてだったのに、神様は彼からバレーボールを奪ったのだ。
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