47人が本棚に入れています
本棚に追加
なつめの言葉の途中で、司はくすくすと笑い始めた。
「俺、仲居さん? いや、俺だったらホテルマンかな」
「向いてると思いますよ。人のことしっかり見ていて、いろんなことに気を回せて。そんな人はなかなかいないもの。きっと素敵なホテルマンになれます」
「素敵なホテルマンじゃなくて、素敵な彼氏って言ってほしいんだけどなあ」
司は、なんとも複雑そうな顔をしながら、鞄を漁った。
「これ、忘れない内に返しとくよ」
手渡されたのは、錆びついた指輪だ。チャックがついた小さなポリ袋に入っている。この袋は、司がわざわざ用意してくれたのだろう。
「今日は付き合ってくれてありがとうね」
「こちらこそ、拾ってくださってありがとうございます」
「あのさ」
司が何か言いかけたその時、上映開始を告げるブザーが鳴り響いた。後でね、と囁いた顔はすでにいつも通りだったが、直前に見せたほんの少しだけ真剣な表情を、なつめは不思議に思った。
最初のコメントを投稿しよう!