絶対に好きにならない人

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 なつめの言葉の途中で、司はくすくすと笑い始めた。 「俺、仲居さん? いや、俺だったらホテルマンかな」 「向いてると思いますよ。人のことしっかり見ていて、いろんなことに気を回せて。そんな人はなかなかいないもの。きっと素敵なホテルマンになれます」 「素敵なホテルマンじゃなくて、素敵な彼氏って言ってほしいんだけどなあ」  司は、なんとも複雑そうな顔をしながら、鞄を漁った。 「これ、忘れない内に返しとくよ」  手渡されたのは、錆びついた指輪だ。チャックがついた小さなポリ袋に入っている。この袋は、司がわざわざ用意してくれたのだろう。 「今日は付き合ってくれてありがとうね」 「こちらこそ、拾ってくださってありがとうございます」 「あのさ」  司が何か言いかけたその時、上映開始を告げるブザーが鳴り響いた。後でね、と囁いた顔はすでにいつも通りだったが、直前に見せたほんの少しだけ真剣な表情を、なつめは不思議に思った。
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